宇宙にいる間は、地に降り立ったときのように明確に夜と示せる時間はない。プラントも人工照明のお陰で夜は暗く、昼は明るくなったが宇宙にいる間はずっと真っ暗なままだった。
光を浴びることができないのは体内時計を刻んで生活する人間にとっては不親切で、光に合わせて自然と眠くなる、なんてこともなかったけれど毎日のハードは訓練や心労から、寝付いてしまえば無理に起こそうとされるまでずっと寝ていられるのがいつものリズムだった、筈だ。

ふと、夜中に目が覚めてしまった俺はそんなことを考えていた。
プラントに戻れば設備の整った寮で一人部屋、悠々と過ごしていられる俺も宇宙空間、それも戦艦ではいくらキャパシティの大きい艦といえども一人部屋に居座ることはできない。寝室用のメインの部屋が一つと、トイレも一緒になったシャワー室。それから小さな冷蔵庫が備え付けられた簡易キッチンがあるだけの部屋で俺は友人と二人夜を過ごしていた。
同じ赤服の着用を許されている仲間の一人、レイだ。

俺がプラントへやってきて二年。ザフトへ入隊し軍学校へ通うようになってから自然とレイと俺は傍にいた。
レイは寡黙で余計なことは口にしない。だけど俺の性格はきちんと理解してくれているようで熱くなった俺を諫めてくれることも多々あった。短い付き合いではあるけど俺にとっては数少ない信頼できる人間だ。

いつ戦闘が起こるかわからない状況下でこうして落ち着いて睡眠を取れる時間は多くない。いつ呼び出されても万全の体調で臨めるように整えておくのは自己責任だ。エースパイロットを勤めている俺は尚更。
ふと目が覚めてしまったことが少しだけ不思議だったけれどだからといってこのまま起きるわけにもいかない。俺は軽くトイレで用をたすとまたベッドにもぐりこもうと起き上がった。

起き上がると、何かが耳に届く。小さなその音は確かにこの部屋から発生しているようだった。
(おばけ、とかじゃねぇよなぁ・・・。)
辺りを見回してもそんな音を出しそうな電化製品も、怪しい侵入者の影もない。俺は決しておびえていたわけではなかったけれど、一応安心してそのままトイレへと向かう。

「・・・・・・。」
だけど戻ってきてもやはりさっきの妙な気配が去っていなかった。暗闇に慣れた目でもう一度部屋を用心深く見渡した。そこで俺は一つのことに気付く。

(レイ、なんか寝相おかしい・・・。)
いつも仰向けになってそのまま動かずに朝を迎えていたはずのレイが、横になって丸まったまま目を閉じていた。
もしかして、具合が悪くてうなされているのだろうか。慌てて駆け寄ると先程の妙な気配の犯人はレイだということが明確になった。
長い髪の毛にその顔のほとんどは覆われているけれど、苦しそうに呼吸をしている。吐いた息の間から小さな呻きが漏れていた。

(もしかしなくとも、やばいんじゃないのか?)
コーディネーターが熱を出すなんて、滅多なことじゃなかったけれど別に有り得ないことじゃない。人の看病なんてしたことないからどうすればいいのかわからずに俺はひとまず濡れタオルを用意した。そっとレイの前髪をかきあげる。
汗はかいているようだけど、熱くはない。ただうなされているだけなのだろうか。

「・・・・・ギル・・・?」

俺が手を話した瞬間レイがそう呟いた。思わず息を潜める。ギル、と言ったら現プラント議長のギルバート・デュランダルだ。昨日まではこの艦にいたその人も、危険だからだかなんだかで艦を抜けてしまっていた。

(あぁ、なんだ。そういうことかよ。)

俺は安堵するのと同時に脱力した。
俺の手を議長の手と勘違いしたのか、それとも議長に関する嫌な夢でも見ていたのか、どっちかは知る術もないけど。ギルと呟いた瞬間からレイの呼吸は規則正しく、表情からは辛さが抜けていた。

議長がレイのお気に入りだというのは、レイと一緒にいれば嫌でもわかる。俺がレイと関わるようになったのはまだ議長がただの議員だった時だったけど、それよりもっと前から二人は関係があるらしい。初めてツーショットを見た時にはもう二人の間に流れる空気が違っていたから。
身寄りのいないらしいレイの、親代わりをしていたんだろうと俺は納得するようにしていた。

(ギル、ねぇ・・・。)

だけどそんなことで納得できない部分も事実多かったりした。
だってただの親代わりにしては、レイが議長に懐きすぎている。本人は気付いていないようでも確かに議長に関することとなると態度が明らかに違う。
世話になっていて、恩人だから、という理由も一つにあるのかもしれないけれど、それにしたって相当だ。普段冷静なレイだからこそ不自然だった。

(・・・・・・いや。)

俺は、考えるのをやめた。
レイと議長のことに考えても今まで一度も納得する仮説をたてられたことがなかった。俺には知る必要がないのだから何も知らせてくれないのだろうし、どうしたってわからないことを考えても仕方がない。

(さっさと寝よう。)

ついレイのことに気をとられて、数分ぼーっと突っ立っていた俺は自分のベッドへと向かった。

「―――ギル。」
俺が向き直った瞬間、暗闇にレイの声が浮かんだ。釣られて振り返ると、うっすらと目を開いたレイがそこにいた。
「あ、起こしたか?悪ぃ。」
夢に起こされたのか本当に俺の気配で起こしてしまったのか。とりあえず暗にここにいるのが議長ではないことを示すように俺はレイに謝った。
はっとレイが俺を見る。すぐに意識をはっきりさせたらしく、驚いた顔も一瞬で消えてしまった。

「シンか。・・・・すまない。」

それだけ言うとレイは今度はきちんと仰向けになってまた目を閉じた。
あまりにいつもどおりなレイを見たら、心配していた自分にムカついた。俺はお前のために睡眠時間を削ってやったっていうのに、それだけかよ。
「お前、魘されてたけど大丈夫か?」
嫌味のつもりでそう訊いてやる。レイが恨みがましそうに俺を睨んだ。
「何もない。大丈夫だ。」
そしてまた目を閉じた。まるでもう話しかけるな、とバリヤーに包まれたその姿に俺もそれ以上の追求はさっさと諦める。
余計なことを訊くのは賢くない。余計なことだとわかっていて訊くのはバカのすることだ。

(大丈夫じゃねぇじゃんか。)

口にすることは諦めても、すぐに気持ちを切り替えることはかなわずに俺は悪態をついた。約二年も一緒にいて、魘されるレイを見たのは初めてだったんだぞ。と、心の中で訴える。
艦を降りた議長のことが心配なら心配だと言えばいいじゃないか。

俺はまた議長とレイのことについて考え始めようとしていて、慌ててそれを振り払った。
考えたって仕方ない。レイを信頼しているからこそ、彼が話したくなるのを待つほうが無難だ。
(ま、話したくなることなんて永遠にないんだろうけどな。)


(とりあえずさっさと敵をやっつけて、お前を議長のところへ帰してやるよ。)


レイが規則正しい寝息をたてるのを確認してから、俺は意気込みを新たに深い眠りについた。








――――――――――――――――――――

Seacret sorrow




(2004/12/07)
レイギルレイの、シン視点。シン→レイじゃないで、す。